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日本ヘーゲル学会第四回研究奨励賞
2011年度


受賞者 野尻英一氏


野尻英一
(のじり・えいいち)


経歴

1994年    早稲田大学第一文学部哲学科卒
2004年    早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程(地球社会論専攻)修了
1998-2000年 早稲田大学社会科学部 助手
2005-2008年 早稲田大学法学部 非常勤講師
2008-2010年 早稲田大学社会科学部 助教
2010年ー   早稲田大学法学学術院 非常勤講師
2010-2011年 フルブライト研究員/シカゴ大学客員研究員
2011-2012年 早稲田大学社会科学総合学術院 非常勤講師


取得学位

学術博士(早稲田大学、2007年)


業績


【著書】
1.(共著)『ヘー ゲル 現代思想の起点』社会評論社、2008年
2.(単著)『意 識と生命――ヘー ゲル『精神現象学』における有機体と「地」のエレメントをめぐる考察』 社会評論社、2010年

【論文等(主なものを抜粋)】
1.(論文)ヘーゲルの「歴史」について ――あるいは否定性の起源について――(早稲田大学『社会科学研究科紀要別冊第九号』2002年)
2.(論文)『精神現象学』の「有機的なもの」と「地」のエレメント(理想社『理想 No.679』2007年)
3.(論文)アメリカ合衆国におけるヘーゲル研究の動向(日本ヘーゲル学会『ヘーゲル哲学研究 第13号』2007年、共著)
4.(論文)ヘーゲルの有機体論と社会――現象学は有機体の夢を見るか?――(社会評論社『ヘーゲル 現代思想の起点』2008年)
5.(論文)意識と「地」のエレメント試論(日本ヘーゲル学会『ヘーゲル哲学研究 第14号』2008年)
6.(発表)Negativity, History, and the Organic Composition of Capital –-Toward a principle theory of transformation of subjectivity–-, Critical Historical Studies Conference, University of Chicago, December 3, 2011.(日 本語訳


【研究経過】と【授賞理由】
(選考経過報告より抜粋:全文は 『ヘーゲル 哲学研究 vol. 17』223-225頁に掲載)

【研究経過】
 応募者[野尻英一氏]は、これまで、現代の人間論、社会論に活かすという見地から、 ヘーゲルの『精神現象学』における有機体論を研究してきた。それは、二〇〇七年に執筆された博士論文『有機体と地のエレメント――ヘーゲル『精神現象学』 の有機体論を解読する――』に結実する。
 研究の発端は、デューイのプラグマティズム倫理学における進化論と有機体論の影響への関心であり、修士論文『認識と倫理』において、応募者はデューイと ヘーゲルの有機体論を比較考察した。博士課程進学後、「「精神現象学」における「有機的なもの」について」(二〇〇三年)において、応募者は『精神現象 学』における有機体論の基本的論理構成を解明し、生命が無限のプロセスとして認識される理由として、純粋な否定性、普遍的な個体性の働きが意識の外にある ことを突き止めた。
 その後、応募者はヘーゲルの有機体論の構成を現代社会論、人間の生の基本構造にアプローチするための道具立てとして一般化することに努め、歴史哲学・社 会科学基礎論・生物学的人間論・文化人類学・思想・文化史等の領域へと接続する作業を行ってきた。その成果は、論文「ヘーゲルの「歴史」について――ある いは否定性の起源について――」(二〇〇二年)、「カントとヘーゲルにおける有機体論の差異について――社会科学の起源を探る――」(二〇〇六年)、「ア メ リカ合衆国におけるヘーゲル研究の動向」(二〇〇七年)、「ヘーゲルの有機体論と社会――現象学は有機体の夢を見るか?――」(二〇〇八年)として発表さ れている。
 こうした研究を基礎に、応募者は「地」のエレメントがヘーゲルの体系を根底において支えている否定性の源、非・意識的、非・理性的、非・自然的な人間精 神 の深層次元を表現していることを明らかにし、それが常に意識を起源とするヘーゲルの思想の枠組みを超える道を示唆していることを明らかにした。
 それは、二十世紀以降のコジェーヴやラカンなどポストモダン的なヘーゲル解釈において「人間的欲望」、「想像的なもの」の次元と同一のものであると想定 され、また最近の脳科学研究、自閉症研究において「共感」の能力と呼ばれるものと関連づけられ、ラカンの象徴的去勢に通じるものであることが示される。
 これらの研究を加味しつつ、応募者は学位論文を改題し、二〇一〇年七月社会評論社より『意識と生命――ヘーゲル『精神現象学』における有機体と「地」の エレメントをめぐる考察』として刊行した。
 応募者は、こうした現代人の倫理的状況をめぐる研究を、更に、社会哲学・社会理論的研究と接続させ、グローバリズムの中にある人間の実存状況一般の理論 を 構築すべく、米国シカゴ大学のモイシェ・ポストン教授のもとで「現代グローバル社会における『普遍的な個人』の倫理的・実存的状況についての社会哲学的研 究」を行っている。そして、その研究を通して、学位論文を「生命篇」とし、「概念篇」、「自我篇」を続篇とする三部からなる体系を構想している。

【授賞理由】
 応募者の研究は、思想史的な興味に止まることなく、『精神現象学』の堅実な読解を通し て、その有機体論を現代的思想状況に接続させ、現代的問題を考えるための手立て・方法をヘーゲルの中に見出そうとする意欲的・野心的なものであり、既発表 の論考がすでに刺激的・啓発的であるだけでなく、体系三部作の構想に見られるように、今後の研究の方向もはっきりと見定められており、その発展が大いに期 待される。よって、応募者は日本ヘーゲル学会研究奨励賞に相応しいものと考える次第である。

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野尻英一